※ 注意 ※
こちらは『恋と深空』二次創作となっております。
間違いで来られた方は即回れ右でお願いします!
お団子たちと戯れたいがために作り出されたファンタジーパロです。
パロなら何でも許されるかなと思って(オイ)
勢い余って表紙っぽいものと挿絵っぽいものまで作った。
世界観の都合上、名前は英語verを採用。
・ほし丸→ステラ
・ゆき丸→スノウィ
・さかな丸→アーティ(アーティシィは言いにくい…)
・まおう丸→フィンディ
※ヒロイン名前変換あり(カタカナ推奨)
1
「あれ、もしかして道に迷っちゃった?」
森の中で方向を見失ってしまったにも拘らず、.はあっけらかんと呟いた。
ただでさえ鬱蒼とした木々に光を遮られて辺りは薄暗いというのに、あと数時間後もすれば太陽も顔を隠し、森の深部は完全に光を失うだろう。そうなれば、魔物の棲家となっている森は一層危険度を増す。鋭利な牙や爪を持つ獰猛な魔物の前では、華奢な体躯の令嬢など悲鳴を上げている間に丸齧りにされ、挙げ句の果てには骨の髄まで貪り尽くされてしまうことだろうに。
「あっちから来たような気がするから、こっちに進めばいいよね?」
深い森の中でたった独り。普通なら途方に暮れている状況であるはずの彼女からは、焦りの色は一向に感じられなかった。
手にしていた弓を背に納め、外套の懐から地図を取り出す。地図をぐるぐると回転させながら辺りを見回してみるが、もちろん森の中に目印になるようなものはない。なおも無闇に歩き回るものだから、余計に現在地が判らなくなることに.は気づけなかった。
『まったく…、だから森を突っ切ろうとするのはよせと言ったのに』
耳のすぐそばで、向こう見ずな.を窘める声が聞こえた。
ブルーアイスのように淡い水色に艶めくお団子のような“何か”が、彼女の肩の上でぷるぷると震えている。
「だって、こっちの方が近道だったんだもん。それに、今日中には皇都に辿り着きたかったし……」
『それで結局迷っていては、近道した意味など皆無だな』
「うっ、スノウィの意地悪」
『私は事実を述べているまでだ』
どれ見せてみろ…と、水色のお団子ことスノウィは彼女の手元までぴょこぴょこと跳ねて行き、地図を覗き込んだ。
水風船のように弾力とハリのある身体が小刻みに揺れるたび、頭部の雪の結晶の飾りがキラキラと光を反射する。
ふたりで地図を見てあーでもないこーでもないと唸っていると、今度はルベライトのように美しい透明感のあるピンク色のお団子が.の肩の上で跳ねた。
『ふふ、絶対迷うと判っていながら森を突っ切ろうとするなんて、とても君らしいと言えるね』
「……お言葉ですけどねアーティ、私としては迷う予定なんてこれっぽっちもなかったんだよ」
背中に生えた尾びれがピコピコと左右に揺れると、丸い身体がほんの少し滞空する。
赤いベレー帽とミニチュアのパレットを装備し、いかにも画家然としたそれが得意げに地図に色を足していく。元々セピア色だった地図は、この小旅行の間にすっかりカラフルになっていた。
『そうなのか? .以外はみんな迷うと確信していたが。だから私はあれほど迂回を提案して──』
『スノウィ、今さら過ぎたことを嘆いても仕方がないよ。せっかく領地を出たんだから、行き当たりばったりの旅をもっと気楽に楽しまないと!』
「私は行き当たりばったりのつもりはないんだけど」と言う.の呟きは、残念ながら言い合いに夢中になっている彼らの耳には届かない。
『.のためにも危険はできるだけ回避したほうがいいと私は言っているんだ。お前も守護者なら少しは警戒したらどうだ、本当にお前は楽天的で気まぐれすぎる』
『みんながみんなスノウィみたいに頭の固い守護者だったら.の息が詰まってしまうでしょ。それに! 僕たちがついているんだから、.に危険が及ぶことなんて万が一にもあり得ないね!』
プンプンとつぶらな目を吊り上げて、アーティが飛び跳ねる。
小さくて丸くてぷにぷにとした可愛いものが自分の周りでキャピキャピしている様子は、.にはもう見慣れた光景だった。
「ふたりとも、しーっ!」
しかし珍しく「静かに」と言われ、彼らは思わずビタリと動きを止めて押し黙った。
彼らの声を聞くことができるのは.だけなので『話し声が他者に聞こえるとまずい』という点においてはその指示は何の意味もなさないのだが、『彼女の気を散らさない』という点においてはとても効果があった。
彼らと話している間も当てなく彷徨い歩いていた.は、少し開けた場所で何かを見つけて茂みに身を隠した。息を潜めるように何かを窺っている。
スノウィたちも同様に.が注視する方向を葉陰から覗き込むと、ひとりの剣士が同じ背丈ほどある猪型の魔物──レッドファングと対峙しているのが見えた。
背の高い茂みが障壁になり、向こうはこちらの存在には気づいていないようだ。
剣士がザッと地面を擦って剣を構える。
対象を貫くような鋭い眼光は、巨大な魔物にも一切の怯みを見せることなく気迫に溢れていた。レッドファングがいかに唸り威嚇してみせようとも、彼が自らの退路を確認することはない。
クセのないまっすぐな銀髪が木漏れ日を浴びて黄金色に輝いている。キラキラと全身に光を纏うような姿は神々しく、思わず息を呑むほどに美しい。
「皇都のハンターかしら? ということは、意外と皇都の近くまで来てるのかも?」
『それは僥倖だね。彼が無事に五体満足でいられたなら、あとで道を尋ねてみよう』
「もうっ、アーティってば。私は目の前で誰かが危険な目に遭いそうなのを、黙って見過ごしたりはしないよ」
レッドファングはその名の通り、赤い強靭な牙を持っている巨大な猪だ。その禍々しい牙は血で染まった色なのではないかという見解もあるほど、正確に表現するならば「赤黒い」が相応しいだろう。その気性は非常に凶暴で、視界に入った己よりヒエラルキーの低い生物すべてに襲いかかるという厄介な習性のある魔物だった。
そんな危険な魔物ゆえ、銀髪の剣士が太刀打ちできないと判断したならば、.は子供の寝物語に登場する勇者の如くすぐさま飛び込んで助太刀するのだが、おそらく手出しは無用だと直感していた。
「来ないのか? ならこっちから行くぞ」
銀髪の剣士の碧眼がギラリと光る。
(あ、行く──…!)
彼が地を蹴るタイミングが.にも判った。
その瞬間、目にも止まらぬ速さで彼がレッドファングまで間合いを詰める。
しかし、驚いたことにレッドファングは目の前の剣士に立ち向かうことを放棄し、一目散に逃げ出した。
よりにもよって、.が潜んでいる茂みの方へ。
「──え」
まさかいきなり方向転換してくるとは思わず、.は目を瞠った。一瞬息を詰めている間に、レッドファングが眼前までドスドスと地響きを立てて迫ってきている。
逃げ出したレッドファングの直線上に少女がひとりいることに剣士が気づいたときにはもう、どうすることもできなかった。
轢かれる──!
と思った瞬間、彼女の肩口から目が眩むほどの強い光が発せられた。
辺り一帯が青白い世界に変わり、視界を遮る。
ピキィ────ィン…
尾を引く耳鳴りのような高い音が耳を刺激する。
白む世界にようやく色が戻ってくると、剣士は目の前の光景に驚愕した。
もう止められないと思っていたレッドファングが、一瞬にして分厚い氷の中に閉じ込められていたのだ。
『ナイスだ、スノウィ!』
『これくらい容易い。アーティの炎では辺りまで焼いてしまう恐れがあるからな』
.の肩の上でアーティが興奮したようにぽよぽよと飛び跳ねる。
その隣にいるスノウィの佇まいはとても凛としていて、冷気が小さな氷の結晶の粒子となってキラキラと彼の周りを取り巻いていた。レッドファングを一瞬で凍結させたのは彼の力だ。
「すごい氷魔法だな。無詠唱でこれほどの威力の魔法を使えるなんて、宮廷魔道師団にすら数人いるかいないかだ」
剣を鞘にしまいながら、銀髪の剣士が.の元へ近づいてくる。
感心したように褒められ、スノウィはぴょこんと居住いを正した。
『無詠唱は基本だ。褒められるほどのことでもない』
なんてことはないと言い放つが、その表情はまんざらでもなさそうだ。小さな身体が、.には少し大きく見えた。
ただ、生憎剣士にはその姿が見えていないため賞賛の言葉は.に向けられたものだったが、結果的にスノウィを褒められて彼女は自分のことのように嬉しく思った。
「お褒めに預かり光栄です」
星の煌めく夜空のように、青く澄んだ瞳が印象的な青年だ。
初めてお目にかかる(おそらく)皇都の男性に、さすが都会の男は洗練されてるわねと、.は興味深げに氷塊に向けられている横顔を盗み見た。
精悍だが、どこかまだ幼さも残るような瑞々しさもある。おそらく同じ年ぐらいだろう。
「あんたもハンターなのか?」
剣士はちらりと.が背に携えた弓を見た。
あんた“も”と尋ねてくるということは、.の見立て通り彼はやはりハンターのようだ。身につけている高級かつ大事に使い込まれていそうな装備品から察するに、きっと皇都で活躍している凄腕ハンターに違いない。
「いいえ、私はまだハンターではありません。ハンターになりたくて故郷を出て、ちょうど今皇都へ向かっているところなんです。ところで、つかぬことをお訊きしますが──」
「なんだ?」
「皇都って、こっちの方向で合ってます?」
ベテランハンターでも本来ならパーティで入るようなこの森をひとりで闊歩する大胆不敵な人物からどんな質問が飛び出してくるかと思いきや、突拍子もない質問に剣士は一瞬ポカンとした後、小さく笑った。
バカにするような笑いではなく、驚異的な強さとほんの少し間の抜けた感のあるアンバランスさに親しみを抱くような苦笑だ。
「なんだ、迷子だったのか?」
地図を見せる.に、剣士は親切に現在地と皇都の方角を教えてくれた。彼はまだこのあと狩猟を続けるようだ。
「皇都まではまだもう少し距離があるが、ひとりで平気か?」
「ええ、大丈夫です」
「まあ、レッドファングを一瞬で倒せるほどの上級魔法を使えるなら、余計な心配だったか。ところで、これは持って行けそうか?」
これ、とはレッドファングのことだ。
ハンターは仕留めた獲物を解体し、角、牙、爪、皮や肉などのパーツを売り生計を立てるものだ。依頼によっては特定の魔物を討伐、特定の素材を納品するだけで特別な報酬を得ることもある。
「私がいただいていいんですか?」
「あんたが仕留めたんだから、もちろんあんたのものだ」
「わあ、ありがとうございます!」
結果的には獲物を横から奪った形になってしまったのだが、快く譲ってくれる彼の懐の深さを.は心の中で大いに讃えた。路銀の持ち合わせが少々心許なかったため、とても助かる申し出だった。
生活に困窮しているハンターならきっと「獲物を見つけたのは俺なのだから半分よこせ」ぐらいは主張しそうなものなのに。きっと彼にはこれぐらいの魔物を討伐することなど容易く、いつでも代わりの報酬を得ることができるのだろう。
「それじゃ、気をつけてな。皇都で活動するなら、またそのうち会うこともあるかもしれない」
「はい、次に会うときは私もきっとハンターです!」
にこりと微笑んで手を振り、銀髪の剣士と別れる。
「そういえば名前を訊きそびれたわね」と.が振り返ったときには、彼の姿はもうどこにもなかった。まるで深い森の幻惑だったのではと錯覚してしまいそうになるくらい、何の痕跡もない。
「まあ、御縁があればまた会えるよね」
なぜか少し後ろ髪を引かれる思いを覚えつつも、.はひとまずは皇都を目指して再び前を見据えた。
「さて、と。それじゃあ、なんとかしてこのレッドファングを皇都まで運ばないとね。私の魔道鞄にはもう入る余裕がないけど……」
.は氷漬けにされたレッドファングをどうしたものかと眺めた。
どう考えても彼女の持つ魔道鞄ではキャパオーバーだ。
魔道鞄とは、空間魔法の施された収納用魔道具のひとつだ。
内部が亜空間となっているためバッグの外観以上の容量を収納でき、重ささえ感じずに荷物を持ち運べる──それはそれは便利なアイテムである。
ただし、価格は決して安くはないため、持っている者はそう多くはない。
.が故郷で調達した魔道鞄はせいぜい1週間分の旅の荷物が入る程度で、さすがにこの巨体は入りそうにない。
この場で解体して必要な部分だけ持っていこうにも、彼女には解体の技術がなかった。
「丸々もらったのは早まったかな?」
『心配いらないよ.、これはアイツに運ばせよう』
僕に任せておいて! と、アーティが.の外套のフードへ潜り込むと、これでもかと大声で“アイツ”の名を呼ぶ。
『フィンディ! 起きて、フィンディ!』
『──な、なんだっ』
驚いて飛び起きた相手と取っ組み合いを始める勢いでフードが派手に波打つ。
しばらくすると、アーティとともにフードからガーネットのような紅いお団子が顔を出した。
『……こんな時間に俺を叩き起こすとはいい度胸だな、さかな丸……』
『僕の名は「アーティ」だ!』
魚のような尾びれを左右に振りながらぷりぷりするアーティとは対照的に、気怠げな声が聞こえてくる。
頭には左右に角、蝙蝠のような皮膜翼、矢じり型の尻尾。そのどれもが赤黒く、まるで物語に出てくる悪魔のような風体をしているが、やはりその身体は小さくて丸っこくてぷるぷるとしていて、とてつもなく愛らしい。
「おはよう、フィンディ。ごめんね、眠っているところを起こして。実は、あなたにお願いしたいことがあるんだ」
.が拡げた手のひらの上に、フィンディがパタパタと小さなハネを羽ばたかせてちょこんと収まる。
いかにも困っていますと眉根を下げて見つめてくる彼女と、目の前の氷漬けにされたレッドファングを見比べると、訊かずともフィンディには状況がつぶさに判った。
『……要するに、この俺に荷物持ちをさせたいわけだな』
「さすがフィンディ、話が早いわね!」
『持ち上げても無駄だ、断る』
「えー、そんなこと言わずに! 皇都まででいいの!」
ぷいとそっぽを向くフィンディに、.が「お願いお願いお願い〜!」と猫撫で声を出して懇願するまで、彼はその頑なな態度を崩さなかった。
.の可愛い表情と声をひとしきり堪能した後、フィンディはやっと折れてくれる。
『判った……。ったく、俺様の崇高な力を荷物持ちに使おうなんて、お前ぐらいなもんだぜ』
「ほんと!? やった! ありがとうフィンディ」
最初は渋っていても.の願い事なら最後には叶えてくれる。冷たい素振りを見せておきながら、結局のところ彼女に甘いフィンディが.は大好きだった。
嬉しくなって思わずちゅっと唇を寄せると、水風船のような柔らかい身体がぷるんと震えた。心なしか、頬が赤らんで見えないこともない。
しかし傍で見ているアーティとスノウィは当然面白くないわけで。
『……見たかいスノウィ』
『……見た』
『駄々をこねて気を引いておきながら最終的に折れてやったみたいな体で恩を売るのが、ヤツのいつもの手口だ』
『まったく、一番新参者のくせに、けしからんな』
『ほんと、いやらしい』
『なんだぁ? 文句があるなら直接言ったらどうだ?』
「もう、みんなケンカしないで。アーティ、いつも私の力になってくれてありがとう。スノウィ、さっきは守ってくれてありがとう。みんな大好きだよ」
アーティとスノウィも手のひらに乗せると、その前で.が「ん」と唇を突き出す。
彼女の意図を察した彼らは、嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねて自ら身体をそこに寄せにいく。順番に彼女の桜色の唇に体当たりをすると、蕩けたように身体がぽよんと波打った。
ぷるんとした感触が唇をくすぐり、.はご満悦だ。フィンディよりも判りやすく頬を染める彼らが可愛くて、「ふふふ、可愛い」と思わず頬をだらしなく緩めてしまう。
.はことあるごとに彼らを「可愛い」と讃えるが、そんなほくほくとした表情を見せる彼女にこそ、その言葉を送りたいと彼らもまた常々思っているのだった。

