水瓶に雨粒

好きなことを、好きなだけ。水が溢れるように。

【恋と深空二次創作】離れないで #ホムラ

※ 注意 ※
こちらは『恋と深空』二次創作となっております。
間違いで来られた方は即回れ右でお願いします!

《登場人物》
主人公(名前変換)、ホムラ、トウ

▼概要
絆デート『夜遊びの章』読了後推奨。
主ちゃんが音信不通になってしまったらホムラはどうするだろう…と思って書いたホムラ1作目です。

▼備考
ホムラ×主人公/恋人設定/
pixiv初掲載 2024.2.12

主人公の名前を変換できます。
※変換しない場合デフォ名「シオン」になりますのでご了承ください。



 ある晴れた日の正午前、.は「Mo Art Studio」までやって来た。
 白砂海岸から約10分ほどの小島にある、ホムラのアトリエ兼自宅だ。

 ここ数日、ホムラと連絡が取れない状態にあることを心配して、仕事の合間を縫って様子を見に来たのだ。

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.
この間から気になってた海岸沿いのカフェ、開店したんだってね!
今度の休みに行ってみない?
(3days ago)既読

.
ホムラ?
(3days ago)既読

.
生きてる?
(2days ago)既読

.
おーい!
(1day ago)既読
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 それが、彼とスマホでやり取りをした最後のメッセージだった。

 リアルタイムではないにしてもメッセージは見ているはずなのに、一向に返信がない。
 電話をしてみても出てくれない。
 そんな状態が続いていた。

 まさか行き倒れているのではないかといよいよ心配になり、こうして自宅にまで押しかけて来たというわけだ。


 立派な門の前まで辿り着き、神妙な面持ちでインターホンを鳴らしてみる。

 何らかの理由で電話にも出ない人物が、果たして突然の自宅襲来に応対するか、という疑問もあったが、それはすぐに解消されることになった。

『やあ、.さん。こんにちは。今、開けますね』

 スピーカー越しに声を掛けてくれたのは、ホムラの親友であり専属マネージャーのトウだ。
 モニターでチェックしているのだろう、名乗るまでもなく、門が自動で開き出す。
 エントランスまで向かうと、トウが迎え入れてくれる。

「トウさん、こんにちは。ここ数日ホムラと連絡が取れないんですけど、ホムラはいますか?」
「え、それは申し訳ない……! ホムラは……あー、いるにはいるんだけど、ちょっと今はそのー……」

 彼にしては珍しく歯切れの悪い回答があり、.は小首を傾げる。

「とりあえずどうぞ入って! ホムラは上にいるので。──申し訳ないけど、私はこれから別件の仕事があるので、失礼するよ」

 ちょうど出掛けるところだったようで、ビジネスバッグを手にしていたトウと入れ替わりに、.は2階へ上がっていく。

 そこにはホムラこだわりの天井の高い広々とした空間がある。
 構想を練ったりくつろいだりするためのソファとローテーブル。
 乱雑に積み重なった真っ白のキャンバス、あちこちの方向を向いている数台のイーゼル、作りかけの石膏像。
 そこかしこに散らばった鉛筆・筆・絵の具に、元の姿が何だったかも判らないほど原型を留めていない何かの欠片等々。
 いつ来てもそこは殺伐としていた。

 そして、その最奥の壁一面に掛かる巨大なキャンバスの前に、目的の人物はいた。

「ホムラ」

 背の高い木製のステップラダーの頂点でキャンバスと向き合っている彼へ、.は控えめに声を掛けた。
 キャンバスを見つめる彼の眼差しは真剣そのもので、一度の呼びかけでは反応がなく、数回その名を呼ぶ。

「──ん? ああ、.か……。どうしたんだい? 今日、会う約束をしていたかな……」

 .を一瞥したきり、ホムラの目は再びキャンバスに釘付けだ。
 筆でパレットから絵の具を掬い、塗りつける作業を続けている。

「約束は特にしてないけど、メッセージの返信がなかったから気になって様子を見に来たの」
「ああ、ごめん、最近忙しく徹夜続きで……。メッセージへの返事は心の中で思って、送信した気になっていたよ」

 ソファの方へちらりと目を向けると、スマホが裏向きに伏せて打ち遣られていた。

「そのようだね……。行き倒れてるんじゃないかと心配したんたけど、そうじゃないなら、良かった」

 どうやら、俗世の雑音をシャットアウトして仕事に熱中していただけだったようだ。
 わざわざ人の出入りの少ない離れ小島にアトリエを構えるほどだ、制作中はひとりで籠もって集中したいタイプなのだろう。

 何かに集中している間ほかのことに気が回らなくなる…ということについては、理解するのは難しくない。
 仕事のことになると食事や睡眠を疎かにしがちなのは彼女も同じだ。

「ホムラ、私、これから1週間ほど仕事で臨空市を離れるの」

 前に約束したから、一応、伝えに来たんだけど……。

 そう言い、.がホムラを見つめていても、一向に彼の手は止まらない。
 彼女の声は音として聞こえているかもしれないが、言語として脳で処理されていないかもしれない。

「じゃあ、今日はもう私帰るね。体調に気をつけて、お仕事頑張って」
「……ああ、ありがとう……。君もね」

 周りのことが一切見えていない様子に少し心配ではあったが、彼にはトウもついているし、きっと大丈夫だろう。
 これ以上仕事の邪魔をしないよう、.は用件だけ伝えると彼のアトリエを後にした。



     * * *



 予定通り7日間で所定の任務を終えた.は、臨空市に舞い戻ってきた。
 無事任務を終えて気分上々。
 スーツケースを引きながら軽快に改札を出て、タクシーを拾うためにロータリーへ向かう。

 駅の出口を出たところで、1週間ぶりに耳にする声が喧騒を割った。

「…….──っ!!」

 それはどこか切羽詰まったような、緊迫したような色を含んでいた。

 驚いて声の方を振り向くと、少し離れたところからホムラが走ってやって来るのが見える。

 何か怒ってもいるような、迷子になっていた子供が母親に再会できたときのような、どこか心細げにも見える表情だった。

「ホムラ? ──ぅわっ!?」

 走ってきたホムラはそのまま勢いを殺すことなく、がばりと.を正面から抱き締めた。
 あまりの勢いに彼女はバランスを崩しかけたが、ワンダラー退治で鍛えた体幹でなんとか持ちこたえて受け止める。

 公衆の面前でこんな行動に出るホムラにもそうだが、何より.を抱き締める腕の力強さに驚いた。
 まるで、逃さないと言わんばかりだ。

 行き交う人がちらりとこちらを一瞥しつつ、通り過ぎていく。
 彼の肩越しに見える周囲の視線が少し痛い。

「一体今までどこに行ってたの! 電話しても電源が入っていないし、ずっと連絡がつかなくて!」

「ごめん、僻地だったから電波が悪くて、充電も予想以上に消耗しちゃって……。充電ケーブル持って出るの忘れてたの」

 そう言えば帰り掛けにケーブルを調達して列車内で充電をしてきたのだった。
 ホムラが取り憑いた状態のままなんとかポケットからスマホを取り出して電源を入れると、彼からの不在着信履歴のおびただしさに目を見開く。

「何、この鬼のような着歴は……!」
「前に音信不通はやめてって僕言ったよね! あのとき君は誓ってくれたのに……っ」

 非難の言葉とともにホムラの力が強まる。
 あまりの強さに窒息してしまいそうだ。

 一旦放して…と抗議しても、彼は聞く耳を持ってくれなかった。
 .の肩口に顔を埋めて動かない。

「私、ちゃんと言ったよ? わざわざホムラの自宅まで行って『1週間仕事で臨空市を離れる』って。仕事に夢中になって聞いてなかったのはホムラじゃない。それって私が悪いのかな?」

 そう言うと、バッと顔を上げたホムラと目が合う。
 表情からは彼女を非難するような怒りの色が消えて、バツの悪そうな色だけが残っていた。

「ごめん、僕は昔から絵に夢中になると周りのことが見えなくなる時があるんだ。今回は展覧会に出す作品を集中して作ってたから……、本当にごめん」

 ホムラは驚くほど素直に謝った。
 もしかするといつものように言葉巧みに煙に巻きに来るかと思っていたのに。

「僕があんな状態になったのはトウのせいだ。急に展覧会に出す作品を増やせって無理難題を押し付けられたんだ。そう、だから悪いのは全部トウだ……!」
「ホムラ」

 他人のせいにするなんて…と嗜めるように呼ぶと、「う……」と彼は押し黙る。

 そうか、それでホムラの自宅まで行ったとき、トウはあんなに居心地が悪そうだったのか……と、.は腑に落ちた。

スマホに残ってた君からの最後のメッセージは僕が既読スルーしてたものだったから、怒って姿を消してしまったのかと思ったよ」
「あー……」

 そう言えば、そのメッセージの後直接会いに行ったから、スマホのやり取りはそれっきりだったことを思い出す。
 それを見て、事の経緯をはっきり覚えていないホムラは自分が無視したことが原因で、.が怒って姿を消したと勘違いしてしまったというわけだ。

「ねえ、そこでラブシーン繰り広げてるの、あれ、画家のホムラじゃない?」
「え? あのイケメンアーティストのホムラ!? どこ、どこ!?」

(まずい……! 周囲がホムラに気づき始めた……!)

 ここは商業施設も併設していて、多くの人が行き交う臨空市きっての主要駅だ。
 その出入り口のど真ん中でこんな状態が何分も続けば、それはもうとびきりの注目を集めていることだろう。

 しかもそれは今をときめく売れっ子画家だ。
 界隈ではもちろん、そのルックスの高さから若者(特に女性)の間でも広く話題になっていた。

 仕舞いにはスマホカメラのシャッター音すら聞こえ始める。

「ホムラ、ちょっと放して! 一旦ここから離れよう!」

 強い口調で言って強引に腕を引っ剥がそうとすると、ホムラは.が怒っているのだと勘違いしたのか、離されまいと頑として腕を緩めない。

「ちょ……っ」
「──.、もうこんなことはしないと誓うよ。だから、僕を嫌いにならないで……。君がいないと、僕はもう、息もできない……」

 それは、今にも泣き出してしまいそうな弱々しい声だった。
 まるで、迷子の子供が暗闇で助けを求めるように。

「そんなことで嫌ったりしないよ」

 .は困ったように苦笑して、子供をあやすようによしよしと頭を撫でる。

「あなたはこれまで通り自分の思うままあるがままに仕事に没頭すればいいよ。押さえつけちゃったら、もういい作品が生まれなくなるかもしれない」
.……」
「私は黙って消えたりはしない。その代わり、たまに文句は言うかもしれないけど、それは甘んじて受け止めて」

 夕陽を映す海の水面のようにキラキラと光る双眸を見つめて、にこりと微笑む。

 彼女が笑顔を見せたことで、ホムラはようやく安堵できた。

「君って本当に、僕に甘いよね……。このままじゃきっと僕はダメ人間ならぬダメ魚になってしまうよ」

 ホムラは自嘲って肩を竦ませる。
 それはどこか嬉しそうでもある。

.、ありがとう。これからも、愛してるよ──」

 優しい音色で愛を囁かれたかと思うと、間近にあったホムラの顔が更に近づき、ふたりの唇が重なった。

 触れるだけの優しい口づけは、まるで誓いのそれのようで。

「~~~~~~──っ!」

 けれど、まさか衆人環視の中でキスされるとは思いもよらず、.は呆然とした後、死にそうなくらい恥ずかしくて顔を下げた。

 ホムラはいつも主導権を握られると弱いくせに、自分が主導権を握るときは平然とキザなことをやってのけるからタチが悪い。

 さあ帰ろう…と美しい顔で微笑んで.のスーツケースを手に取り、彼女の肩を抱いてタクシー乗り場へエスコートする。
 タクシーに乗り込むまで、彼女はひたすら顔を伏せるしかなかった。

 どうか、自分の顔は写っていませんように……。

 .は心の中でそう祈った。



 その直後、名うての若手イケメン画家の行動が、SNSを賑わせたのは言うまでもなかった。

離れないで