こちらは『恋と深空』二次創作となっております。
間違いで来られた方は即回れ右でお願いします!
《登場人物》
主人公(名前変換)、レイ
▼概要
pixiv初掲載 2024.02.10.
恋深二次創作記念すべき第一弾でした。
忙しい者同士、1ヶ月ぶりに会えるという1コマ。
▼備考
レイ×主人公/恋人設定
※変換しない場合デフォ名「シオン」になりますのでご了承ください。
午後11時13分。
早朝からの任務を終え、.はようやく家に帰り着いた。
と言っても、そこは彼女の自宅ではなく、恋人であるレイの家だ。
一旦家に戻る時間を惜しんで、仕事を終えたその足でやって来たのだが、どうやらまだ家主は帰ってきていないようだ。
預かっていたスペアのスマートキーで玄関のドアを開け、家主の代わりに真っ暗なリビングに明かりを灯す。
リビングのテーブルの上にスペアキーを置くと、キーホルダーに付いた雪の結晶のチャームが小さく音を立てた。
上着を脱いでソファに身を沈めると、無意識に深い深い吐息が漏れた。
どうやら自覚しているよりも、疲れが溜まっているらしい。
早くレイに会いたい──…。
ビデオ通話で顔は見ているが、お互いに仕事が忙しく、直に会えていない日々がもう1ヶ月も続いている。
彼の少し低めの体温が恋しい。
早くあの鼓膜をくすぐるような低く優しい声で名前を囁いてほしい。
明日はようやくふたりの休日が重なる貴重な日。
だからこうして前日から泊まりに来たというわけだ。
お泊りセットは特に必要なかった。
なぜなら、.の私物はこれまでのお泊りで少しずつこの部屋に増えていき、今では住めるぐらいにまで揃えられているからだ。
.専用のマグカップや歯ブラシも、部屋着にパジャマに下着…はさすがに自分で用意したが、ほとんどレイが準備してくれた。
いつでもここに越してきていいぞと、レイは微笑っていた。
思い出して、記憶の中の彼と同じように.も口元をほころばせた。
ピロン…
時間を確認しようとスマホを取り出したとき、ちょうどレイからメッセージが入った。
『すまない、急患が入ってしまった
必ず戻るから、帰らずに泊まって行ってくれると嬉しい
先に寝ていてくれ』
「また、急患か……」
重責の職業柄、今に始まったことではない。
.はそれで彼を責めたことは一度もない。
しかし、仕方がない…と思いつつも、やはり溜息が溢れてしまうものだ。
早く。早く帰って来て。
「……よし!」
鬱屈した気分を変えようと、.は素早く諾の返事をした後、スマホをソファに放り投げてバスルームへ向かった。
* * *
深夜3時過ぎ、玄関の方で物音が聞こえた気がして、眠りに落ちていた.の意識が少し浮上した。
音の正体を探してしばらく微睡んでいると、静かに寝室の扉が開く。
誰かの重力によってベッドが沈み込むと、.のこめかみに唇がそっと押し当てられた。
相手は問わずとも判っている。
「ただいま……」
相手を起こさないよう気遣われた、家主の甘く優しげな声が吐息を伴って鼓膜に落ちる。
「……おかえり」
返事があるとは思っていなかったようで、伏せられていた緑琥珀の双眸が驚いたように.を覗き込んだ。
カーテンの隙間から差し込む街灯の光によって、お互いの表情が薄っすらと暗闇の中に浮かぶ。
目が合うと.はふわりと微笑んで徐ろに身体を起こし、そして、彼の首元へ縋り付くように抱きついた。
拍子に、いつものレイの匂いが鼻腔をくすぐる。
──ああ、レイだ……。
「お仕事お疲れ様、レイ……」
「ああ、.も、連日の任務お疲れ様」
労いの言葉とともに、レイは華奢な身体を強く抱き返した。
ずっと焦がれていた温もりにようやく触れれたことに心が震え、漏れた吐息はどちらのものともつかない。
抱きついたまましばらく動く気配のない.に焦れったさを覚え、レイは自分の首に巻き付く腕を半ば強引に引き剥がさせた。
そして、せっかくの久方ぶりの再会の抱擁に浸っていた彼女が不満を口にする前に、その唇を自分のそれで塞いでしまう。
「ん……!」
レイの情熱的な舌が歯列を割り、口腔でお互いの熱が絡み合う。
離れていた時間を取り戻すかのような口づけは、少し強引で、けれど甘く、脳を痺れさせた。
呼吸さえも呑み込まれてしまうようで、一旦酸素を欲して.が唇を離すと、レイのそれがまた追いかけてきて呼吸を奪う。
「……ん、…ふ……っ」
苦しいのに、求められることが嬉しくて、心臓が早鐘を打つ。
意趣返しに今度は.が熱を押し返すと、レイが吐息で微笑った気がした。
彼女を抱きしめる腕に一際力が込められる。
さらに深くなる口づけに.はいよいよ音を上げる。握りこぶしでレイの胸に訴えたところで、ようやく唇が開放された。
「はあ、はあ……っ」
乱れた呼吸を落ち着かせることに夢中になっていると、伸びてきたレイの手に顎を取られて持ち上げられた。
再び彼の顔が近づいてきたかと思うと、熱い舌が今度は顎から唇の端までをゆっくりとなぞり上がってくる。溢れた唾液を掬われたのだと知ると、顔がカッとまた熱くなった。
見上げると、同じく胸を上下させているレイの視線とぶつかる。
その双眸は炎を宿したように暗闇の中で妖しげな光を放っていた。
煩わしげにネクタイを緩めて抜き去り、シャツのボタンを2,3個開ける。
レイらしからぬ粗暴な所作は、まるで手負いの獣のようだと.は思った。
下手に手を出せば、今にも喉元に喰らいつかれてしまいそうな気配さえする。
こんなに自分の欲望を顕にしている彼は珍しい。
いつもは悔しいくらいに大人でクールな彼が、長く離れている間に自分と同じように、直接会いたい、声が聴きたいと、想い焦がれてくれていたのだと思うと、胸がきゅうと締めつけられた。
けれど、その表情にはやはり疲れが見える。
レイは自身を落ち着かせるように深い吐息を落とした後、立ち上がってベッド脇のクローゼットに向かった。
スーツを脱いで寝間着に着替える彼の後ろ姿を、.はなんとなしに眺めた。
今しがたの抱擁で彼の髪から洗いたてのシャンプーの匂いが香ったところを見ると、どうやらシャワーは病院で済ませてきたようだ。
「またソレを着ているのだな。お前は一体私のシャツを何枚くしゃくしゃにすれば気が済むのだろうな?」
着替えながら肩越しに振り返ったレイが溜め息混じりに微笑う。
.がパジャマ代わりにしているのは、レイのYシャツだ。丈の長い裾から覗く脚は相変わらず素肌そのもので、「身体が冷えるからボトムスを穿け」と、レイが何度言っても聞き入れられない。
「あなたがこの部屋で私をひとりにする時間を減らせれば、犠牲は最小限に抑えられるよ」
用意されたパジャマがあるにも関わらず、彼女が彼のYシャツを着ることは度々あった。
それが寂しさの裏返しであることをレイは理解しているので、「最善を尽くすよ」と優しく応えて彼女の頭をくしゃりと撫でる。
「ご飯は? 食べた?」
「ああ、オフィスでデリバリーして食べた。お前こそ、きちんと食事はしたのだろうな」
「ちゃんと食べましたよー、レイお母さん」
「誰がお母さんだ」
軽口を言いながら、.は剥がれた布団を整えつつ、ベッドに彼の分の隙間を空ける。
そこへ寝間着に着替えたレイが潜り込んできて、ふたりで横になる。
ベッドは、大人ふたりが触れ合わないぐらいの距離を置いて寝そべっても、まだ少しだけ余裕がある。
お互いに向き合って見つめ合うと、しばし静かな時間が流れた。
会ったら、会えなかった間に起こった出来事を話したり訊いたりしたいと思っていたのに、言葉が出てこない。
今はこのまま眠って、明日またゆっくりと語り尽くそう…と、.はゆっくりと瞳を閉じた。
すると、そうはさすまいと言うように、シャツの裾から忍び込んできた大きな手のひらに腰を撫でられ、.はびくりと身体を震わせて目を見開いた。
「ダメだよ、今日はもう寝なきゃ。レイ、すごく疲れた顔してる」
「…………」
窘めてもレイは聞く耳を持たず、素肌をまさぐる悪戯な手は次第に上の方へ伸びてくる。
「レイ…! ──っ」
突然身体を仰向けに転がされたかと思うとレイがのしかかってきて、反発の良いマットレスが身体を弾ませる。
いつもは憎らしいくらい平常心な彼の、今は少し早い鼓動が合わさった身体から感じられた。ずっしりと逞しい荷重が心地良い。
上から双眸を覗き込まれ、視界いっぱいにレイの顔が映る。
「久しぶりに会った恋人をそんな格好で煽っておきながら焦らすとは、どうやら誰かさんは激しいのがご所望と見える」
レイの声が一層低くなり、耳を吐息でくすぐられる。
目で、耳で、香りで、そして肌で誘惑しにきているのが判る。
「そういうことじゃなくて! そりゃあ、久しぶりにレイに会うんだし、私だって期待、してなかったわけじゃないし……。私だって本当は、……たいのを我慢してるし……」
恥ずかしそうに視線を外し、最後の方はごにょごにょとほとんど聞こえなかっただろう。
けれど、それがやぶ蛇であることに.は気づかない。
「はあ…、お前は私を止めさせたいのか、そうじゃないのか、どっちなんだ。それを聞かされた私がますます止まらなくなるとは思わないのか……?」
レイは軽く眉間を寄せて呟き、.の首筋に顔を埋めてその肌をきつく吸った。
「──あ…っ!」
闇に紛れて見えないが、彼女のなめらかな肌には、紅い印がくっきりと刻まれただろう。
再び妖しい動きをし始める指先と唇に、.は心を鬼にして彼を制した。
こちらだって我慢しているのだから、そんな恨みがましい目で見ないでほしい。
「今は身体を休めることが優先! 明日いくらでも──あ、」
「そうか、『明日いくらでも』か」
「あー、レイ……、今のは──」
「では、明日目を覚ましたら覚悟しておけ。散々焦らした分、明日は一日ベッドから出られないだろうな」
「う……」
してやったりと言わんばかりに、レイは綺麗な顔で微笑んだ。
言質を取ったことに満足した様子で、再び横向きに寝そべり、腕の中に彼女を収める。
ずっと病院に篭っている印象とは裏腹に、鍛え上げられた太く逞しい腕に.の頭を載せさせ、もう一方は彼女の腰に手を回す。
「おやすみ、.……」
愛しいぬくもりに安堵したのか、今さっきの攻防が嘘のように、レイは数分もしないうちに寝息を立て始めた。
余程疲れが溜まっていたのだろう。
「おやすみ、レイ──」
吐息の触れ合う距離で、ふたりは一ヶ月ぶりに、安らかな眠りにつくことができた。
繋がったぬくもりは、朝陽が顔を覗かせてしばらくしても、離れることはなかった。
そしてレイの宣言通り、翌日、.はベッドの上で一日を過ごすことになるのだった。
ぬくもりのそばで