水瓶に雨粒

好きなことを、好きなだけ。水が溢れるように。

【恋と深空二次創作】香りに映す #マヒル

※ 注意 ※
こちらは『恋と深空』二次創作となっております。
間違いで来られた方は即回れ右でお願いします!

《登場人物》
ヒル、DAA同僚(捏造)

▼概要
恋深始めて間もなくの頃、軽率に兄さんをこじらせたい病になり2024年4月頃にこさえたSS。
密かに主ちゃんを想っているマヒル像……というとなんだか切ない感じがするけど、これはただのギャグ。

▼備考
4章前/DAA時代/同僚捏造/ヒロイン登場なし




「あれ? マヒルって本当に独り暮らしなのか?」

 初めて家に遊びにやって来た同僚が、女っ気のない部屋を目の当たりにするなり、さも意外そうにそんなことを宣った。

「オレ、誰かと同居してるなんて言ったか?」
「いや、独り暮らしとは聞いてたけど、それは嘘で、絶対に彼女と同棲してると思ってた」

「なんでそんな意味のない嘘吐かなきゃならないんだよ」
 笑いながら、友人の前に缶ビールを差し出す。

 唐突に家に遊びに行きたいと言われて何事かと思ったが、どうやらマヒルが本当に独り暮らしかどうかの真相を突き止めたかっただけのようだ。

 オレが恋人と同棲してるだって? 一体なんでそんなことに。
 マヒルは呆れたようにため息をついた。

「マヒルって、いつも女みたいな匂いさせてるじゃん。だから絶対彼女と同棲してると思ってた」
「は?」

 突然妙なことを口走る友人に、マヒルは素っ頓狂な声を上げた。

「同棲どころか、オレは今は付き合ってる相手もいないぞ」

 マヒルは普段香水なんて使っていないし、この部屋に特別香りを発するようなルームフレグランスも置いていない。
 洗濯洗剤や柔軟剤の香りか? と自分の服をクンクンと嗅いでみても、普通の洗剤のソープ系の匂いがするだけで、特に“女っぽい”と評されるような香りではないと思う。

「俺は知っている! 香りの発生源はここだぁっ!」
「ちょ! 缶ビール1本で酔ってるのか!?」

 突然声を張り上げてドタバタと玄関の方へ走り出す友人を慌てて追いかける。
 彼が向かった先は玄関──ではなく、その手前にあるバスルームだ。

 バスルームの折りたたみドアをバンと勢い任せに開け放つ。「壊すなよ⁉︎」というマヒルの焦ったような声には耳も貸さず、そこに目的のものを見つけた瞬間、彼は鬼の首を取ったかのように声を上げる。

「ほーら見ろ! その女モノのシャンプーが、お前にオンナがいるという証拠だぁっ!」

 ビシリ! と効果音さえつきそうな勢いで彼が指を差した先にあったものは、淡いピンクとオレンジ色の華やかで可愛らしいシャンプーボトルだ。
 色合いからしても、女性をターゲット層とした商品であることは誰の目から見ても明らかだ。

「…………」
 なるほど、とマヒルは合点がいった。

 それは、マヒルがまだ実家と言って差し支えない祖母の家で暮らしていた頃、妹が好んで使っていたものだ。
 シャンプーどころか、コンディショナー、ボディソープ、洗顔料に至るまで、当時妹が使っていたものをマヒルは独り暮らしを始めてからも自分で続けて買い求めていた。

「いい匂いだよな、これ。職場の女性陣は絶対女の影アリって言ってるし、男どもはお前の匂いを嗅ぐとたまにドキッとするって言ってる」
「やめろ気持ち悪い」

 クンクンとマヒルの髪に鼻を寄せてくる友人の後半の言葉に寒気を覚え、グイと彼の顔を突き放す。

 まさか、自分だけでこっそりと楽しんでいたはずのものが、うっかり間接的に妹の香りを周囲にバラ撒いていたなんて。
 マヒルの匂いを嗅ぐとドキッとするイコール妹にドキッとしている──という図式に、秀眉が不機嫌そうに歪む。

(ダメだ! あのシャンプーを使うのは即刻中止しよう……っ!)

 リビングへ引きずり戻す間も性懲りもなくまだマヒルの匂いを嗅ごうとしてくる友人を腕で突っ張りながら、マヒルはあのシャンプーを使うのは週末だけにしようと心に誓うのだった。

香りに映す